街を抱く国立公園
バリローチェは、この公園の隣にある街ではありません。公園の中にある街なのです。セントロ・シビコには灰色の石造りのアーケードと黒っぽい木のバルコニーが並んでいます。そこから坂を下っていくと、通りの突き当たりいっぱいにナウエル・ウアピ湖(Lago Nahuel Huapi)が広がります。冷たく大きな湖で、対岸には森に覆われた尾根がいくつも連なっています。
公園の管理事務所は、この広場に近いAv. San Martínにあります。登山道の状況を確かめたり地図を手に入れたりするなら、まずここに立ち寄るのがよいでしょう。
この公園は、フランシスコ・“ペリト”・モレノ(Francisco “Perito” Moreno)が1903年に寄贈した土地から始まりました。そのため、アルゼンチンの国立公園制度のなかで最も古い保護区となっています。現在の面積はリオ・ネグロ州とネウケン州にまたがる7,000平方キロメートル以上です。氷河や火山の峰、温帯雨林、数十もの湖を含む広大な土地なので、旅行者が見られるのはごく一部にすぎません。どこを見るのか、あらかじめ目的をもって選んでおきましょう。
シルクイト・チコ:湖畔をめぐる周回路
多くの旅行者が最初に訪れるのはシルクイト・チコ(Circuito Chico)です。ブスティージョ通り(Avenida Bustillo)から街を出て湖の西岸をたどる、全長およそ60キロメートルの舗装された周回路です。車で走るほか、キロポスト周辺で借りられる自転車を使ったり、一部の区間を市バスで移動したりすることもできます。
車を停めて立ち寄りたいスポットは次のとおりです。
- セロ・カンパナリオ(Cerro Campanario):リフトで山頂の展望台まで上がると、ナウエル・ウアピ湖とペリト・モレノ湖を見下ろせます。
- プエルト・パニュエロ(Puerto Pañuelo):ビクトリア島(Isla Victoria)行きの船が出る船着き場です。
- リャオ・リャオ・ホテル(Llao Llao Hotel):丘の上に建つ木と石造りのホテルで、道路から眺めるのがいちばんです。
- プント・パノラミコ(Punto Panorámico):ロペス湾(Bahía López)を一望できる道路沿いの展望所です。
- コロニア・スイサ(Colonia Suiza):周回路から少しそれたところにある小さな集落で、クラント(curanto)で知られています。
自転車で回る場合、起伏が続くうえに路肩も狭くなっています。朝早く出発し、ほぼ丸一日を見込んでおきましょう。
レンガの森を登って:カテドラルと山小屋
街の南西には、山頂に花崗岩の尖塔が王冠のように並ぶセロ・カテドラル(Cerro Catedral)がそびえています。冬には南米でも有数の規模を誇るスキー場になります。夏にはリフトがハイカーを運び上げ、ビジャ・カテドラル(Villa Catedral)の登山口からは、この公園で最も有名な日帰りハイキングコースが延びています。
定番はフレイ小屋(Refugio Frey)までのコースです。コイウエの森からレンガの森へと登っていくと、尖塔群の下の小さな湖のほとりに石造りの小屋が現れます。往復で丸一日かかると考えておきましょう。体力に自信のある人は、フレイ小屋からハコブ小屋やラグナ・ネグラ小屋などをつないで、数日がかりの縦走に挑んでいます。
山小屋(レフヒオ)は、クラブ・アンディーノ・バリローチェ(Club Andino Bariloche)と協力して運営されています。二段ベッドと簡単な温かい食事があり、ストーブのそばでくつろぐこともできます。各小屋やルートの最新の状況は、街にあるクラブ・アンディーノの事務所で確認できます。
トロナドールへの道と一方通行の時間割
セロ・トロナドール(Cerro Tronador)は「雷鳴の山」という意味を持つ、チリとの国境にそびえる氷河をいただいた火山です。標高は3,400メートルをゆうに超えます。マスカルディ湖(Lago Mascardi)を過ぎてパンパ・リンダ(Pampa Linda)まで長い砂利道を走る人が多いのは、この山を見るためです。名前の由来は氷河の崩れ落ちる轟音で、暖かい日の午後には実際にその音を聞くことができます。
ここには、旅行者が見落としがちな独特の決まりがあります。道路の上部区間は道幅が狭く、対面通行ができません。そのため決められた時間割に従って片方向ずつ通行する仕組みになっており、午前中は上り、午後の遅い時間は下りとなります。時間を逃すと次の通行時間まで待たなければなりません。出発前に公園事務所で最新の時間割を確認し、それを軸にその日の予定を組み立てましょう。
道の終点にあるベンティスケロ・ネグロ(Ventisquero Negro)は、岩屑に覆われて黒く染まった氷河です。灰色の融氷水の湖へと氷塊が崩れ落ちていきます。パンパ・リンダからは、山腹にあるオットー・メイリング小屋(Refugio Otto Meiling)へ向かう登山道が延びています。
季節は日本と逆
ここは南半球なので、季節が逆になります。
- 12月から3月:夏です。高所の登山道から雪が消え、山小屋にも管理人が入ります。勇気のある人なら湖で泳ぐこともできます。ハイキングで最もにぎわう時期です。
- 4月と5月:秋です。レンガやニレの森が赤や金色に色づき、日が短くなって空気も引き締まります。
- 6月から9月:冬です。カテドラルのスキーシーズンが始まり、高所の登山道は雪に閉ざされます。
- 10月と11月:春です。野の花が咲き始めますが、峠にはまだ雪が残っていることが多くあります。
どの季節でも天候は急変します。湖が穏やかな朝でも、午後には森林限界より上で強風やみぞれになることがあります。晴れ渡った日でも、雨風を防ぐアウターを必ず持っていきましょう。
ナウエル・ウアピでのマナー
多くの人が訪れるこの公園が守られているのは、訪問者がいくつかの共通の習慣を守っているからです。
- バスにはSUBEカードで乗りましょう。 バリローチェの市バスでは現金が使えず、チャージ式のSUBEカードで支払います。20番路線はブスティージョ通りを通ってリャオ・リャオやプエルト・パニュエロ方面へ、55番路線はビジャ・カテドラルへ向かいます。
- 長距離のハイキングは届け出をしましょう。 主要な日帰りコース以外を歩く場合、公園は出発前に行程を登録するよう求めています。現在の手続きについては、Av. San Martínの事務所で尋ねてください。
- 火の取り扱いのルールを守りましょう。 乾燥した夏には、パタゴニアの森はあっという間に燃え広がります。たき火は指定された場所でしか認められず、全面禁止になることもあります。喫煙者は吸い殻を必ず持ち帰ってください。
- 持ち込んだものはすべて持ち帰りましょう。 ほとんどの山小屋では、ごみは各自で麓まで持ち帰ることになっています。
- 夏は山小屋のベッドを予約しましょう。 1月と2月は、現地に着いてから空きを期待するのではなく、事前に山小屋かクラブ・アンディーノに連絡してください。
- マテをすすめられたら受け取りましょう。 山小屋や展望所では、グループでマテ茶の器を回し飲みします。飲み終えたら、注いでくれた人に器を返してください。「グラシアス」と言えば、もう十分ですという合図になります。
フレイ小屋のような人気のルートでは、ハイシーズンは早めに出発するのがいちばんの策です。街から来るハイカーの波より先に歩き始めれば、つづら折りの道も静かで、湖畔の場所もたいてい確保できます。
日程の組み立て方
初めての訪問なら3日から5日が無理のない日程です。次の中からそれぞれ1日ずつ選んでみてください。
- 湖畔:シルクイト・チコ(希望すればビクトリア島への船も)
- 山:カテドラル、フレイ小屋、またはセロ・オット(Cerro Otto)
- 西の奥地:トロナドールとパンパ・リンダ
車があり、1日余裕があるなら、湖の北岸にあるビジャ・ラ・アンゴストゥーラ(Villa La Angostura)を加えるのもよいでしょう。そのすぐ隣にある、シナモン色の樹皮を持つミルテの森、ロス・アラヤネス(Los Arrayanes)は、別の国立公園として指定されています。
野生動物との出会いも、ひそかな楽しみのひとつです。開けた尾根の上空ではアンデスコンドルが舞っていないか空を見上げてみてください。原生林では、オスの頭が鮮やかな赤色をしたマゼランキツツキを探してみましょう。公園では絶滅危惧種のゲマルジカも保護されていますが、その姿を目にできる旅行者はごくわずかです。
よくある質問
車がなくても、バリローチェからナウエル・ウアピ国立公園に入れますか?
バリローチェにいる時点で、すでに公園の中にいます。主なエリアへは、SUBEカードで乗れる市バスで行けます。20番路線はブスティージョ通りを通ってリャオ・リャオやプエルト・パニュエロ方面へ、55番路線はビジャ・カテドラルへ向かいます。トロナドールやパンパ・リンダへは、ツアーに参加するかレンタカーを借りるのが一般的です。
訪れるのに最適な時期はいつですか?
ハイキングをするなら、山小屋に管理人がいる12月から3月が最適です。4月と5月はレンガの森が紅葉します。6月から9月はセロ・カテドラルのスキーシーズンです。
何日あれば足りますか?
3日から5日あれば見どころを回れます。1日目はシルクイト・チコ、2日目はフレイ小屋などへの山歩き、3日目はセロ・トロナドールへの日帰り旅行にあてるとよいでしょう。
セロ・トロナドールまで車で行く前に、知っておくべきことはありますか?
はい、あります。パンパ・リンダへ向かう道路の上部区間は、決められた時間割に従って片方向ずつ通行する仕組みになっています。早い時間は上り、遅い時間は下りです。街を出る前に、Av. San Martínの公園事務所で最新の時間割を確認してください。
山小屋の予約は必要ですか?
夏のピーク、特に1月と2月は予約しておくのが賢明です。事前に山小屋かクラブ・アンディーノ・バリローチェに連絡してください。また、数日がかりのトレッキングをする場合は、出発前に公園に行程を登録しておきましょう。
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