7〜8階建ての倉庫がずらりと並び、そのあいだを「フリート」と呼ばれる細い運河が縫うように流れています。赤レンガの壁は水面からそのまま立ち上がり、屋根の上には緑青をまとった銅の小塔がいくつも並びます。街区どうしは鉄の歩道橋で結ばれ、運河側のファサードには、かつての荷揚げ口が上へ上へと縦一列に重なっています。
破風の下をよく見ると、はしけからコーヒー豆の袋を引き上げていた巻き上げ用の梁がいまも残っています。
ここがシュパイヒャーシュタットです。エルベ川のほとりに1キロ以上にわたって続くこの街は、そもそも人が住むために造られた場所ではありません。ハンブルク屈指の有名スポットであり、ユネスコの世界遺産にも登録されているので、決して穴場というわけではありません。それでも、通りと橋からなる現役の街区だけに、いつ訪れても、どこかにレンガと水面を独り占めできる一角が見つかります。
倉庫を読み解く
まずは足元に目を向けてみてください。この街区全体は、川底に打ち込まれたオーク材などの木杭の上に建っています。つまり、重たいレンガ造りの建物が、エルベ川の泥の奥深くに沈んだ木材に支えられているのです。建設が始まったのは1883年のことでした。この年、ハンブルクはドイツ関税同盟に加盟し、関税をかけずに商品を保管できる自由港が必要になったのです。工事はその後も段階的に進められ、20世紀まで続きました。
この壮大な計画の代償を払ったのは、もともとここで暮らしていた人々でした。ケーアヴィーダー(Kehrwieder)島とヴァンドラーム(Wandrahm)島にあった古い住宅地は取り壊され、何千人もの住民が立ち退きを余儀なくされました。その跡地に建てられたのが、尖った破風や施釉レンガの帯、小さな塔を備えたネオゴシック様式の倉庫群です。
かつてここに保管されていた品々を知っておくと、街歩きのよい手がかりになります。
- コーヒー、紅茶、カカオ:この街区がもともと扱うために造られた交易品
- 香辛料とたばこ:温度や湿度が安定した上階で保管
- オリエンタル絨毯:いまもひっそりとこの地で商いが続く品
2015年、ユネスコはシュパイヒャーシュタットを、隣接するコントールハウス地区(Kontorhausviertel)と、船首のような形をしたチリハウス(Chilehaus)とあわせて世界遺産に登録しました。街区の東端からヴィリー・ブラント通り(Willy-Brandt-Straße)を渡ると、この2つを一度に眺められます。倉庫が商品を蓄え、通りの向かいのオフィスビルが商売を動かしていたのです。
ヴァッサーシュロスとポッゲンミューレン橋
シュパイヒャーシュタットの絵はがきには、決まって同じ建物が写っています。それが、2本のフリートが合流する岬に立つ、小塔のある細長いレンガ造りのヴァッサーシュロス(Wasserschloss)です。かつてはクレーンを動かし続ける水圧式ウインチの技師たちの作業場と詰め所が置かれていました。
定番の撮影スポットは、街区の東端にあるポッゲンミューレン橋(Poggenmühlen-Brücke)で、住所のアルター・ヴァンドラーム(Alter Wandrahm)から歩いてすぐです。橋の上からは、両側を倉庫のファサードに挟まれ、2本の運河のあいだにたたずむヴァッサーシュロスが見えます。橋の上にはほかにもカメラを構える人がいるはずです。自転車や配達用バイクが抜け道として通るので、端に寄って撮影しましょう。
そこからは、アルター・ヴァンドラーム、ケーアヴィーダー、ブローク(Brook)の各通りを西へ歩いてみてください。橋ごとに切り取られる運河の景色が違うので、通りがかった橋はすべて渡ってみるのがおすすめです。
遊覧船は潮次第
このあたりのエルベ川には潮の満ち引きがあり、シュパイヒャーシュタットの水位もそれに合わせて上下します。水面の高さから街並みを眺めたいなら、時刻表よりもこちらのほうがずっと重要です。ランドゥングスブリュッケン(Landungsbrücken)から出航する「バルカッセ」と呼ばれる小型のオープンボートは、水位が許すときにしか低い橋の下をくぐってフリートに入ることができません。
干潮時には運河を通らず、港の本流だけを回ることもあります。倉庫街のフリートをめぐるのが一番の目的なら、乗船前にその日の便がシュパイヒャーシュタットを通るかどうか、運航会社に確認しておきましょう。潮の時間に合った便を選ぶのがポイントです。潮位によって変わるルートは、たいていの運航会社が桟橋やウェブサイトで案内しています。
この潮が、ときに街区に牙をむくこともあります。強い高潮に見舞われると、このあたりの低い通りはハンブルクでもいち早く浸水する場所のひとつになります。多くの建物の1階が人のためではなく、商品のために造られたのはそのためです。
夜のレンガ街
シュパイヒャーシュタットは24時間開放されていて、昼とまったく違う表情を見せるのが夜です。ライト��ップによって破風や橋、小塔が温かな光に浮かび上がり、運河の水面にはそのすべてが映り込みます。この時間になると博物館目当ての人波も引いていて、静けさの中でレンガの壁のスケールをより実感できます。
夜の散策には、西端にあるエルプフィルハーモニー(Elbphilharmonie)もぜひ組み合わせてください。古いレンガ倉庫の土台の上に、波打つ形のガラス張りの上部が載った建物です。ヴァッサーシュロスからこのコンサートホールまで歩けば、街区全体を通り抜けて、ハーフェンシティの新しいウォーターフロントへと抜けられます。
扉の向こうにあるもの
いまでは多くの倉庫が観光施設として使われていて、なかには1時間ほどかけてじっくり見る価値のある施設もあります。
- ミニチュア・ワンダーランド(Miniatur Wunderland):ケーアヴィーダーにある巨大な鉄道模型の施設。時間指定のチケット制で、早々に埋まります
- シュパイヒャーシュタット博物館(Speicherstadtmuseum):実際の倉庫の中で、コーヒー・紅茶・絨毯の交易を紹介
- ドイツ税関博物館(Deutsches Zollmuseum):かつての自由港にふさわしい、関税の歴史をたどる博物館
- スパイシーズ香辛料博物館(Spicy’s Gewürzmuseum):この街区の交易の歴史を色濃く伝える香辛料の博物館
- ハンブルク・ダンジョン(Hamburg Dungeon):演劇仕立てのアトラクション。10代の子ども連れにおすすめ
- 国際海洋博物館(Internationales Maritimes Museum):境界を越えてすぐのハーフェンシティ側、歴史ある倉庫の中にある博物館
開館時間や入場料は施設ごとに異なるので、出かける前にそれぞれの公式サイトで確認してください。
現役の街を歩くために
シュパイヒャーシュタットにはいまもオフィスや商社が入り、荷物の配達も行き交っています。テーマパークではなく、人々が働く街として訪れましょう。次のような心がけで、より快適に見て回れます。
- あいさつには「モイン(Moin)」を使いましょう。ハンブルクの人々は朝に限らず、どの時間帯でもこの言葉を使います。
- 写真を撮るときは、橋の欄干や建物の出入り口をふさがないようにしましょう。配送用のバンやカーゴバイクには本当にそのスペースが必要です。
- ミニチュア・ワンダーランドは事前にオンラインで予約しておきましょう。予約なしで行くと長時間待たされることがよくあります。
- カードに加えてユーロの現金も少し持っておきましょう。港周辺の小さな窓口や売店では、カードが使えないこともあります。
アクセスは、東端とヴァッサーシュロス方面ならU1でメスベルク(Meßberg)へ、エルプフィルハーモニー方面ならU3でバウムヴァル(Baumwall)へ向かいます。ユーバーゼークヴァルティーア(Überseequartier、U4)で降りれば、ハーフェンシティ側に出られます。HVVの乗車券1枚でUバーンとSバーンの両方に乗れるうえ、ランドゥングスブリュッケン発のHVVの港湾フェリーも利用できます。
エリア内のあちこちに赤いシェアサイクル「StadtRAD」のステーションがあり、東西の端を行き来するのに便利です。
早朝に着けば、たいていツアー客より先にポッゲンミューレン橋にたどり着けます。夜遅くに散策すれば、ツアー客に出くわすこともまずありません。
よくある質問
公共交通機関でシュパイヒャーシュタットへ行くにはどうすればいいですか?
東端やヴァッサーシュロスの眺めが目当てなら、U1でメスベルクへ向かいましょう。エルプフィルハーモニー側ならU3でバウムヴァルが便利です。ハーフェンシティ側にはユーバーゼークヴァルティーア(U4)があります。どの駅からも少し歩けば街区に入れます。
シュパイヒャーシュタットは夜でも入れますか?
はい、入れます。通りと橋からなる公共の街区なので、毎日24時間開放されています。日が暮れるとファサードや橋がライトアップされるので、夜の散策はぜひおすすめです。なお、街区内の博物館はそれぞれ独自の開館時間を設けています。
シュパイヒャーシュタットにはどのくらいの時間をかければいいですか?
ヴァッサーシュロスからエルプフィルハーモニーまで、橋や運河を歩いてめぐるなら2時間ほどみておきましょう。ミニチュア・ワンダーランドなどの博物館やバルカッセでの港めぐりも加えるなら、半日がかりの予定にするのがおすすめです。
港の遊覧船はシュパイヒャーシュタットの運河を通りますか?
潮の状態が許すときに限られます。ランドゥングスブリュッケンから出る小型のバルカッセは、低い橋の下をくぐってフリートに入るのに十分な水位が必要です。乗船前に、その便がシュパイヒャーシュタットを通るかどうか運航会社に確認してください。
シュパイヒャーシュタットの周辺には何がありますか?
西側と南側にはエルプフィルハーモニーとハーフェンシティが隣接しています。ヴィリー・ブラント通りを渡ってすぐのところには、ユネスコ世界遺産のコントールハウス地区とチリハウスがあります。また、西へ少し歩くか、U3に乗ればランドゥングスブリュッケンの桟橋にも行けます。
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