家浦は、細い路地に瓦屋根の家々が建ち並び、岸壁には小さな漁船がつながれている、今も人々が暮らす港の集落です。フェリーを降りた人の多くは、そのままレンタサイクルの窓口かバス停へ向かいます。そこから路地を数分上ったところに、一軒の古民家を解体し、画家の熱に浮かされた夢のような空間として組み直した建物があります。それが豊島横尾館です。
裏返しにされた集落の民家
この建物は、もとはごく普通の民家でした。瀬戸内海の島々を舞台に開かれるアートの祭典「瀬戸内国際芸術祭」に合わせ、2013年に美術館として生まれ変わりました。現在は、直島の美術館群を手がける団体と同じ、ベネッセアートサイト直島の施設のひとつになっています。
手がけたのは2人です。ひとりは1936年生まれのグラフィックデザイナーで画家の横尾忠則さん。1960年代の東京のイメージを形づくったポスターで知られています。もうひとりは建築家の永山祐子さんで、古い建物を改修して横尾さんの絵画を収める空間に仕上げました。両隣に民家が並ぶ住宅街の路地に建っているので、門の前に立つまでは美術館らしさをほとんど感じません。
施設自身の紹介文は短く、「現代美術作品と庭、そしてファンキーなトイレのある元民家」とあるだけです。3つともその言葉どおりで、トイレも冗談ではありません。
滝の塔
訪れた人があとで口をそろえて話題にするのが、この塔です。集落の古い屋並みの上に円筒形の高い塔が突き出していて、家浦でこんな姿をした建物はほかにありません。内部の壁は、横尾さんが数十年かけて集めた何千枚もの滝の絵はがきで埋め尽くされています。
塔の上部と床には鏡が張られています。中に入ると、頭上にも足元にも絵はがきの滝がどこまでも続いているように見えます。狭いうえに方向感覚がおかしくなるため、高い所が苦手な人には想像以上の迫力に感じられることもあります。写真を撮ってすぐ出るのではなく、少なくとも1分はゆっくり身を置いてみてください。
絵画、庭、そしてトイレ
ほかの展示は、民家の部屋をめぐりながら見ていきます。かつて家族が暮らしていた部屋に、横尾さんの大きなキャンバス作品が掛けられています。どれも密度が高く色鮮やかで、生と死を主題にしたものも多いのですが、生活の場に置かれていることで、いっそう不思議な印象を受けます。
- 庭: 石と水で構成された庭で、色ガラス越しに眺める部分もあります。立つ位置によって景色の色合いが変わります。
- 絵画: 改修された部屋に大作が展示されています。昔ながらの日本家屋の面影がはっきり残る部屋もあります。
- トイレ: はい、これも作品の一部です。用がなくてもぜひのぞいてみてください。
見学時間の目安は45分〜1時間ほどです。こぢんまりした施設なので、時間をかけても歩く距離が延びるわけではなく、作品をより丁寧に見られるということです。
家浦でフェリーを降りたら
アクセスは、ほぼ船の時刻表しだいです。豊島には港が2つあり、横尾館があるのは島の西側にある主要港の家浦です。岸壁から集落へ向かって、歩いて数分の楽な道のりです。
家浦港へは次の港から船が出ています。
- 高松(香川県):高速船が運航しています
- 宇野港(岡山県玉野市):JRの列車で来る場合に便利です
- 直島の宮浦港:島めぐりをする人の定番ルートです
- 小豆島の土庄港
便数が少なく、ダイヤも季節によって変わります。一日の計画は、アートではなく帰りの船を基準に立てましょう。美術館をひとつ見逃すより、豊島からの最終便に乗り遅れるほうがはるかに困ったことになります。
靴、チケット、静かな部屋
いくつか心がけておくと、見学がスムーズになります。
まずはベネッセのサイトで予約を。 豊島の各施設のチケットや最新の開館時間は、ベネッセアートサイト直島の公式ウェブサイトで扱っています。島の反対側にある豊島美術館は、基本的に日時指定の事前予約が必要です。横尾館も、訪問日にオンライン予約ができるなら同じように予約しておけば、門の前で初めて状況を知るということがありません。料金は公式サイトと受付に掲載されています。
靴を脱ぐ心づもりを。 古い日本家屋なので、靴下で歩く場所があります。脱ぎ履きしやすい靴だと楽ですし、穴のあいていない靴下ならなお安心です。
撮影に関する表示を確認しましょう。 ベネッセの施設にはそれぞれ撮影のルールがあり、施設ごと、部屋ごとに異なります。何が許可されているかはスタッフが教えてくれるので、反論せずに従ってください。
外では声を控えめに。 路地は住宅街で、隣には人が住んでいます。門の前では静かに待ち、車の出入り口をふさがないようにしましょう。
混み具合は、何よりもフェリーの時間に左右されます。船が着くと、来館者がまとまって坂を上ってきます。港でコーヒーを飲んだり、先に自転車を借りたりして少し時間をずらすと、人の少ない部屋を見られることがよくあります。
横尾館を軸にした豊島の一日
豊島を訪れる人の多くのお目当ては豊島美術館です。西沢立衛さんと内藤礼さんによる白いコンクリートのシェル状の建物で、唐櫃(からと)方面の棚田を見下ろす高台に建っています。横尾館はこれとまったく対照的なので、組み合わせるのにぴったりです。一方は静まり返り、ほとんど何もない空間。もう一方は騒々しく赤に満ち、イメージがひしめき合っています。
家浦港の近くでは電動自転車を借りられ、坂の多い島内の移動に向いています。家浦と唐櫃の間はコミュニティバスでも結ばれています。唐櫃の浜の近くには、クリスチャン・ボルタンスキーによる心臓音の記録施設心臓音のアーカイブ(Les Archives du Cœur)があります。
港のすぐそばにあるので、横尾館は島に着いてすぐか、帰りの船に乗る直前に訪れるのが現実的な順番です。そのうえで、日中に豊島美術館と唐櫃をめぐるとよいでしょう。
注意したい曜日と季節
現在の開館時間は午前10時〜午後4時で、火曜日が休館日です。ただし、これは固定のものと考えないでください。豊島にあるベネッセの施設は年間を通してスケジュールが変わり、寒い時期には休館する平日が増える施設もいくつかあります。瀬戸内国際芸術祭の期間中には特別開館も行われます。
旅行する月の情報を公式サイトで確認し、豊島美術館の休館日とも照らし合わせておきましょう。休館日を見落とすと、せっかくの船旅が丸ごと無駄になりかねません。芸術祭が開かれない年は比較的落ち着いていて、島めぐりの途中で素通りしてしまう人も多い、穏やかな立ち寄りスポットです。
よくある質問
豊島横尾館へはどうやって行けばよいですか?
高松、宇野港、直島の宮浦港、または小豆島の土庄港から船に乗り、豊島の家浦港で降ります。横尾館は家浦の岸壁から集落の路地を上って、歩いて数分のところにあります。便数が少ないので、旅行日の時刻表を確認しておきましょう。
休館日はいつですか?
現在の開館時間は午前10時〜午後4時で、火曜日が休館日です。開館時間や休館日は年間を通して変わり、特に冬季や瀬戸内国際芸術祭の期間中は変動します。訪れる月の情報をベネッセアートサイト直島の公式ウェブサイトで確認してください。
見学にはどれくらい時間をみておけばよいですか?
絵画、庭、滝の絵はがきと鏡の塔、トイレの作品をひととおり見るなら、45分〜1時間ほどが目安です。フェリーに乗る前に家浦港まで歩いて戻る時間も、余裕をもって確保しておきましょう。
豊島美術館と同じ日に回れますか?
回れます。実際、ほとんどの人がそうしています。家浦港で電動自転車を借りるか、唐櫃方面行きのコミュニティバスに乗って豊島美術館へ向かいましょう。豊島美術館は通常、日時指定の事前予約が必要です。横尾館は港のすぐ近くにあるので、一日の始めか終わりに組み込むと無理がありません。
靴を脱ぐ必要はありますか?
古い日本家屋なので、館内には靴を脱いで上がる場所があります。脱ぎ履きしやすい靴で行くと楽です。靴や撮影に関するルールは部屋ごとに異なるため、スタッフの案内に従ってください。
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